大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)81号 判決

被告人 本山邦彦

〔抄 録〕

原判決挙示引用の関係証拠、ことに、被告人及び右相馬の捜査官に対する各供述調書によれば、被告人は、原判示のように借金の返済や旅行費等の捻出に苦慮したすえ、独身で多額の財産を所有していると思われる原判示清水貞雄を殺害して同人の財産を奪おうと企図するに至り、原判示の経緯で右相馬とこれを相謀り、被害者を殺害して同人の財産を奪うことを決意し、被害者を殺害後、被告人が被害者に代り、同人の個人経営にかかる日本技研商事株式会社等関係会社の経営に当たりながら、被害者の所有、占有する土地、株券、株券預り証、預金通帳、現金等財産的価値のあるものを入手して換金処分などをし、これを右相馬と分配することの相談を遂げ、その犯意に基づき、原判示第一の一のように右清水貞雄を殺害し、すぐその場で、同人の所持していた原判示の現金、鍵束、電話帳を奪取したものであることが認められるから、所論指摘の強盗殺人罪の定型性や被害者の殺害と財物奪取の機会の同一性等(時間的、場所的接着性等)の有無を検討するまでもなく、被告人が相馬国次と共謀のうえ、財物奪取の手段としてその財物の所有者たる前記清水貞雄を殺害してこれを奪取せんとの故意、すなわち強盗殺人の犯意に基づきその犯意の具体的な実行行為として右清水を原判示どおり殺害し右現金等の財物を奪取した所為が強盗殺人罪に当たることは明らかであって、その犯意に欠けるところはない。さらに附言すれば、強盗殺人罪の成立には所論のごとく人の殺害と財物奪取との間に必ずしも時間的、場所的接着性を要するものではなく、右のごとく財物奪取の意思でその手段として財物の所有者又は占有者を殺害すれば、財物奪取に着手の有無を問わず同罪は既遂となるものであり、財物奪取の意思は単なる意図もしくは計画では足りないが、殺害の実行行為に着手した時点において個別的財物奪取の意思があれば、足りるものというべく、被告人において清水を殺害してその所有する財産、すなわちこれを構成する個別的財物を奪取する意思があった以上清水殺害当時同人の着衣ポケツトに存在していた原判示の現金を奪取することを直接目的としたものでなかったとしても、被告人に強盗殺人罪の成立を免れないことは当然である。

原判決が被害者所持の腕時計の奪取につき不法領得の意思が認められないとしてこれを強取の対象から除外したことの是非並びに原判示金員等奪取の点に限り強盗殺人罪の成立を特に問うたことの当否は格別として、原判決が原判示第一の一の所為を強盗殺人罪に当るものと認定したことは相当である。所論は、独自の見解のもとに、たやすく措信しがたい被告人及び右相馬の原審公判延における各弁解を前提に原判決の認定を非難するものであって、到底採用の限りでない。論旨は理由がない。

もっとも、職権で、原判決を検討すると、原判決は、原判示第一の一において、被告人の共謀に基づく故意の強盗殺人の事実を認定しながら、その犯意に基づく実行行為ともいうべき原判示第三の一、二、三の株券預り証等の奪取につき別罪が成立するとして、これを同一、二の占有離脱物横領、同三の窃盗に当たるとして認定評価しているけれども、原判示第一の一、同第三の一、二、三につき原判決挙示引用の関係証拠によれば、原判示第三の一、二、三の各物品は、いずれも、被害者が殺害された当時同人がこれを所有、占有し、ことに、同三の株券六通は、同人経営会社の経理事務員相原陽子を介してこれを占有していたものであり、被告人のこれら物品の奪取は、いずれも、先に判示した被告人の強盗殺人の犯意に基づき実行されたものであることが認められるから、その奪取については別罪を構成することなく、原判示第一の一の強盗殺人罪の実行行為としてこれを認定評価すべきものであるのに、原判決がこれを右のように別罪と認定評価したのは法律の適用を誤ったものであるけれども、その誤りは、被告人のみの控訴にかかる本件においては、法令の適用による処断刑に影響を及ぼすまでに至らないから、いまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえず、したがって、原判決を破棄すべき事由とはならない。

(谷口 金子 下村)

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